東京入管で発生したイタリア人男性自死事件について入管庁への申入れ【2023/4/20】

 2022年11月18日、東京出入国在留管理局の収容施設において、収容されていたイタリア人男性Gianluca Stafisso氏(以下A氏という)が自死するという痛ましい事案が発生しました。
2022年11月22日の参議院法務委員会における法務大臣の答弁及びその後の法務大臣及び入管庁の会見等で明らかにされているとおり、A氏は在留資格を失った後2020年9月に仮放免となっていたところ、2022年10月25日に東京入管の収容施設に収容されていました。12月16日の会見では、内部調査の結果、自死であること、自殺をうかがわせる本人の言動等は見当たらなかったこと、入管庁における不適切な対応は確認されなかったことなどが公表されました。


 先般4月10日の、難民問題に関する議員懇談会の総会において、入管庁及び支援者に対するヒアリングにおいて収容前はホームレス状態であった生前のA氏と親交を結び、居所を提供すること、及び養子縁組も視野にA氏の身元保証人になることを検討していた地域住民の方(以下、支援者B氏という)があり、その意志を東京入管に申し出ていた事実が明らかになりました。A氏は滞在の正規化を図ることが可能であったにも拘わらず、入管庁は支援者B氏の申し出を無視して仮放免の取消しと収容を強行したのです。

 また、A氏は精神的に不安定な状態にありました。イタリア大使館からの依頼によりA氏を診断した精神科医は、2018年10月18日付で「パラノイア(の疑い)(妄想性パーソナリティ障害の疑い)」の診断報告書(以下、精神科診断書という)を作成しています。さらに4月13日、TBSの取材に対し、イタリア政府関係者が「収容されたときに(精神状態について)説明はしていた。ちゃんとお医者さんに診てもらうとか、色々お願いしていた」、「過去の精神科医の診断についても入管庁に伝えた」と答えたとの報道がありました。イタリア政府関係者がこのように回答している以上、入管庁がA氏の不安定な精神状態について十分な情報を得ていたことは間違いありません。入管庁はA氏の健康に対する十分な配慮を怠り、精神的困難を増悪させるような状態で絶望の淵に落とし、防げたはずの死を招いたのです。入管庁には、一人の人間を収容する責任を全うできない事実を真摯に反省する姿勢が見られません。現に、A氏の収容の妥当性に関する言及は、これまで一切ありませんでした。

 A氏の収容から自死に至る経緯には、依然として詳らかにされていない点が多々あり、不適切な収容及び処遇であった疑いが強まっています。


 以上のことから、この度の事件の真相究明と再発防止を求めて入管庁に対して申入れを行いました。

申入れは立憲民主党所属、参議院議員の石川大我議員の同行でBOND社会人メンバーが行いました。BOND学生メンバーは、プラカードを掲げて真相究明と再発防止を求める姿勢を示しました。



申入書

2023年4月20日

出入国在留管理庁長官 殿


 2022年11月18日、東京出入国在留管理局(以下、東京入管という)の収容施設において、収容されていたイタリア人男性Gianluca Stafisso氏(以下A氏という)が自死するという痛ましい事案が発生しました。同年11月22日の参議院法務委員会における法務大臣の答弁及びその後の法務大臣及び貴庁の会見等で明らかにされているとおり、A氏は在留資格を失った後、2020年9月に仮放免となっていたところ、2022年10月25日に東京入管の収容施設に収容されていました。同年12月16日の会見では、内部調査の結果、自死であること、自殺をうかがわせる本人の言動等は見当たらなかったこと、貴庁における不適切な対応は確認されなかったことなどが公表されました。

 先般4月10日に、難民問題に関する議員懇談会の総会において、貴庁及び支援者に対するヒアリングが行われました。その際に、A氏の仮放免を取り消し収容した経緯や収容中の処遇などにつき貴庁への質問がなされましたが、貴庁の回答は概して一般的な規則等を述べるにとどまり、A氏への対応に関する具体的な事実は殆ど明らかにされませんでした。一方で、収容前はホームレス状態であった生前のA氏と親交を結び、居所を提供すること、及び養子縁組も視野にA氏の身元保証人になることを検討していた地域住民の方(以下、支援者B氏という)があり、その意志を東京入管に申し出ていた事実が明らかになりました。A氏は滞在の正規化を図ることが可能であったにも拘わらず、貴庁は支援者B氏の申し出を無視して仮放免の取消しと収容を強行したのです。

 また、A氏は精神的に不安定な状態にありました。イタリア大使館からの依頼によりA氏を診断した精神科医は、2018年10月18日付で「パラノイア(の疑い)(妄想性パーソナリティ障害の疑い)」の診断報告書(以下、精神科診断書という)を作成しています。さらに4月13日、TBSの取材に対し、イタリア政府関係者が「収容されたときに(精神状態について)説明はしていた。ちゃんとお医者さんに診てもらうとか、色々お願いしていた」、「過去の精神科医の診断についても入管庁に伝えた」と答えたとの報道がありました。イタリア政府関係者がこのように回答している以上、貴庁がA氏の不安定な精神状態について十分な情報提供を得ていたことは間違いありません。それにも拘わらず、貴庁は収容後のA氏に内科医は受診させたが精神科医は受診させなかったと、これまでの法務委員会並びに記者会見等で述べてきました。貴庁はA氏の健康に対する十分な配慮を怠り、精神的困難を増悪させるような状態で絶望の淵に落とし、防げたはずの死を招いたのです。貴庁には、一人の人間を収容する責任を全うできない事実を真摯に反省する姿勢が見られません。現に、A氏の収容の妥当性に関する言及は、これまで一切ありませんでした。

 A氏の収容から自死に至る経緯には、依然として詳らかにされていない点が多々あり、不適切な収容及び処遇であった疑いが強まっています。つきましては、下記の指摘並びに質問に対し、書面による回答を求めます。

一、収容に至る経緯

(1)2022年10月5日、支援者B氏は東京入管を訪れ、違反審査部門の職員に対し、A氏の状態を説明したうえで、A氏に居所の提供を検討していること、養子縁組も視野に自身が身元保証人になることを検討していることを伝え、何らかの強制的な措置は待ってほしいと要望した。応対した当該職員が1週間内外で電話または手紙で回答すると応じたので、支援者B氏は自身の連絡先を書いて当該職員に渡したが、貴庁からは支援者B氏に何の回答もしなかった。居所と身元保証人を確保できる見通しが立つのであれば、仮放免を取り消す必要はなかったのではないか。貴庁において、支援者B氏の申し出をどのように検討していたかを教えてもらいたい。

(2)A氏は収容前、東京都福生市内の睦橋の下を居場所としていた。睦橋は2022年11月1日から塗装工事が予定されており、工事開始に支障が生じることから、A氏の立ち退きが必要な状態であった。4月10日の難民問題に関する議員懇談会の総会において、収容の理由を問う質問に対し、貴庁は仮放免条件違反の事実が確認されたと回答している。しかし、支援者B氏及び他の地域住民支援者は、A氏が定期的に仮放免期間延長の手続きのため東京入管に出頭していたことを確認している。よって貴庁は、早い段階でA氏がホームレス状態であった事実は把握していたはずである。一方、東京都外への移動や就労の事実は確認できず、通常の仮放免条件の違反行為は見受けられない。貴庁は、睦橋の下から退去させるためにA氏を収容したのか。改めて、A氏の仮放免を取り消し、収容を決定した理由を伺いたい。

(3)精神科診断書があることを含めA氏の精神疾患(疑い)について、イタリア当局から情報提供を受けていたのであるから、貴庁はA氏の収容時にA氏の不安定な精神状態を把握していた。そもそもA氏の収容自体が不適切だったのではないか。貴庁の考えを伺いたい。

二、収容中の処遇

(1)2022年10月当時、東京入管においては、新型コロナウイルス感染防止の観点から、収容に際しては被収容者を2週間程度特定の収容区に隔離した後に他の被収容者のいる収容区へ移動させる運用をしていた。しかし、A氏については10月25日の収容から亡くなる11月18日までの25日間、他の被収容者がいる収容区に移動させず、居室に独居の状態で開放処遇なく収容を続けた。A氏の精神状態を鑑みれば、むしろ他の被収容者と交流できる環境に移したほうが、独居の状態で拘束するよりも、A氏の心身への負担が少なかったとも想定される。2週間を超えても単独での収容を継続した理由を伺いたい。

(2)4月13日、参議院の法務委員会において、石川大我参議院議員からの質問に対し、貴庁より、A氏に対しては庁内の内科を複数回受診させたが、精神科は受診させていない、またカウンセリングを1度受けさせたが、A氏よりカウンセリングは希望しない旨の話があったため継続しなかったとの説明があった。精神科を受診させなかったことに関しては、A氏本人からの申し出がなかったこと、及び庁内において精神科医を含む複数の医師に精神科受診の要否を確認したところ庁内医師が受診の必要性を認めなかったことを理由としている。A氏を診察していない精神科医に対し、A氏には精神科診断書がある旨の説明がされていたのか。精神科受診の既往がある者を収容する場合、精神科または心療内科を受診させたうえで医師の意見を仰ぐべきであるが、それをしなかったのは何故か。精神科を受診させなかったことに対する見解を述べてもらいたい。

三、収容の決定から自死に至るまでの事実関係をまとめた調査報告書の作成及び公表

   行政が管理する施設において人が亡くなっているのであるから、仮に経緯及び処遇に問題はないとの判断に至ったとしても、改善可能な点を洗い出し事後に活かそうとするのは当然である。ましてやA氏の場合は、一及び二に指摘したとおり、そもそも仮放免の取消しと収容が適切であったとは到底想定できない事実が複数存在する。貴庁は、本件に関し、事実関係の検証は行ったとのことであるが、詳細な報告書は公表されていない。ついては、上記の指摘に対する文書での回答に加え、A氏の仮放免を取り消し、収容し、死亡に至るまでの経緯を詳らかに盛り込んだ調査報告書を作成のうえ、社会に公表することを強く求める。

以 上

BOND~外国人労働者・難民とともに歩む会~

私たちBOND(バンド)は、日本に暮らす外国人労働者や難民のための支援活動を行うボランティア団体です。


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