牛久入管における被収容者への過剰な制圧行為に対する抗議申入れ【2023/4/18】

2023年4月18日に、BONDから入管庁、東日本入国管理センターに対し、今年3月に発生した被収容者への制圧行為に対する抗議申入れを行いました。


牛久入管(東日本入国管理センター)において面会支援をしている被収容者から、入管職員から複数回にわたり過剰な制圧行為を受けたとの報告がありました。BONDで聞き取りを重ね、事実関係について概ね正確なところを把握した上、申入れを行いました。


申入れに対応した入管職員の一人は、申入れ中には視線を伏せて目を合わせようとせず、またうなずいたりもせずに固い顔で黙っているといった態度でした。

申入れ後、入管職員は「回答はしないが、上には伝える」「色々と意見があると思うが、こちらは行政としてやるべきことをやるだけだ」などと述べました。


申 入 書

2023年4月18日

出入国在留管理庁長官  殿

東日本入国管理センター所長  殿

        

BOND(外国人労働者・難民と共に歩む会)


 本年3月3日(金)に東日本入国管理センター(以下、「貴センター」と言う。)にて、被収容者■■■■■■氏(■■国籍。以下、「A氏」と言う。)に対して三度にわたる制圧行為(以下、三度の制圧行為を併せて「本件制圧行為」と言う。)が行われた。当会は、貴センターによる本件制圧行為に対し厳重に抗議し、今後、このようなことを行わないこと等を求める。その理由、詳細は、以下に述べるとおりである。

1.本件制圧行為の経緯

当会がA氏から聞き取った事実の経緯は以下のとおりである。

(1)本年3月3日(金)、A氏のもとに郵便物(レターパック)が届いた。開封に際しA氏が職員にハサミの貸与を求めたところ、拒否された。A氏はハサミの貸与についてのルールにつき恣意性があることを指摘し、この点についての話が長引くことになった。職員はA氏に対し、処遇室に行くように指示した。

(2)A氏は拒否し、重ねて行くように命じられると、処遇室に入るくらいなら自分のことを傷つける、絶対に行きたくない等と述べたが、最終的には指示に従い、自ら処遇室に行った。

(3)A氏が処遇室に入ったところ、処遇室には5,6名の職員が待機していた。A氏は、一人の職員から、その場ですぐに隔離措置を執る旨、言い渡された。A氏は理由がないので止めてほしいと言ったが、職員は「決定なので」と応じなかった。このやり取りを何度かした末に、A氏は待機していた職員たちから手を押さえられ、処遇室を出たエレベーター前まで連れて行かれた。

(4)そこにおいて、A氏は「お願いだからやめてくれ」と言って足を止めようとしたところ、「制圧」と言われ、職員たちが一斉にA氏の首をつかみ、頭を押さえつけ、床に倒そうとした。A氏は倒されまいと抵抗し、「痛い、やめてくれ、もう懲罰室に行くから」と懇願したが、最終的にA氏は多数の職員たちによって力づくで倒され、うつぶせに十字または大の字状に床に押さえつけられた。A氏はこの間もやめるよう懇願していたが、指揮する立場の職員は「力を抜けば痛くないよ」と述べるのみで、制圧行為が中止されることはなかった(第一の制圧行為)。

(5)A氏はそのまま別フロアの隔離室に連れて行かれ、同室に収容された。A氏は不当な扱いに対する怒りが抑えられず、隔離室の壁やドアを拳で殴りつけていたところ、隔離室に複数名の職員が入ってきて、同じように倒れるまで制圧された(第二の制圧行為)。

(6)その後もなおもA氏は怒りが収まらず、さらに隔離室の壁に当たったり、罵ったりしていた。すると今度は盾状のものを携えた職員が入ってきて、それを用いてA氏を力づくで隔離室の壁に潰すように押し付けた(第三の制圧行為)。この第三の制圧行為により、A氏は左膝から出血する傷害を負った。

なお、ここまでの一連の制圧行為において、A氏は暴れたり、職員に手を出したりといったことは一切していない。

(7)第三の制圧行為後、A氏はさらに別の隔離室(畳の敷かれていない剥き出しの床の部屋で、便器はあるが水が流れないようになっている部屋)に移され、3月7日(火)までの5日間、同室にて隔離処分を受けた。その間、A氏は摂食を行わず、体重が5キログラム減少した。

(8)3月10日(金)に当会のメンバーがA氏と面会をしたところ、A氏は面会室に車椅子で現れた。これは不摂食により体力が落ちたからというよりも、本件制圧行為によって骨盤、肩、脚などが痛めつけられたことによるということである。

   なお、この傷害について、A氏は外部の病院に連れて行くよう申し出を行ったが、拒否され、診断書を取ることができなかった。

2.本件制圧行為の問題点

(1)まず、郵便物に関する取扱いに関してA氏が不服を述べ譲らなかったことに対し執られた隔離措置の相当性には疑いがある。A氏は口頭で不服を述べただけであり、職務執行への反抗または妨害とは言えないし、また、自傷行為をする旨口頭で述べはしたものの、実行には至っていないからである(被収容者処遇規則(以下、「規則」と言う。)第十八条(隔離)第一項第二号、同第三号)。本件制圧行為の前提となる隔離措置からして不当であると考える。

(2)本件制圧行為について言えば、処遇室から隔離室まで、職員が身体を拘束して移動させる途中、エレベーター前で第一の制圧行為が行われた。A氏が足を踏ん張ってエレベーターに入るまいとする態勢を見せたために「制止等の措置」(規則第十七条の二)として行われたと思われる。このとき、床に倒される前にA氏が従うから止めるよう懇願したにもかかわらず、制圧行為が継続された。「制止等の措置」は被収容者が遵守事項への違反行為をし、またはしようとする場合に「合理的に必要と判断される限度で、その行為を制止し、その他その行為を抑止するため」にすることができるものとされているが、かかる制圧行為は、A氏の隔離措置への抵抗行為を制止・抑止するために合理的に必要とされる限度と言えるかどうか、大いに疑問がある。

そもそも、警察官等による、床や地面に押さえつける態様での制圧行為が窒息等による死を招いた事例は、国内外で事欠かない。貴庁(旧入国管理局)においても、2010年3月22日に国費送還の執行における制圧行為によって被送還者が亡くなっている。このように、制圧行為は、それを受ける者の生命を危殆に陥らせる危険行為であり、余程の切迫した場合でなければ、「合理的に必要とされる限度」内にとどまるものとは言えないと考える。また、制圧行為が、被制圧者に対し著しい屈辱を与え、人格や尊厳に対する侵害にも当たることも見逃せない。

この第一の制圧行為は、A氏が隔離室への連行に対して足を踏ん張る程度の抵抗を行ったことに対する制止・抑止として、5,6名の職員で一斉に床に押さえつける態様で行われ、また、職員の指示に従う旨の意思が表明された後になおも継続しており、上述したような切迫性がないことは明らかであり、したがって「合理的に必要とされる限度」を超えている。

さらに、A氏の隔離室における壁を殴る等の行為に対し、二度にわたる制圧行為が行われた(第二、第三の制圧行為)。これらの制圧行為についても、規則第十七条の二により許容される「制止等の措置」と言えるかどうか、大いに疑わしい。壁を殴る等の行為を制止・抑止しようとすること自体は認められるとしても、制圧を受ける者の行為の非違性に比して、床や壁に全身を押さえつける態様での制圧行為は相当な程度を超えている。特に第三の制圧行為は、左膝から出血するまで行われ、明らかに過剰である。これらの点に鑑み、第二・第三の制圧行為も、「合理的に必要とされる限度」内にとどまるものではない。

以上のように、本件制圧行為は、全体として、被収容者の遵守事項への違反行為等の制止ないし抑止として「合理的に必要とされる限度」を逸脱し、被収容者の身体及び人格・尊厳に対する許されない侵害として規則第1条の述べる人権尊重にも違背するものであって、違法である。

(3)このような事例は、今回のA氏に対するものに限られない。直近でも、本年2月、名古屋から移収されてきたばかりの●●●●●●氏(●●国籍、以下「B氏」と言う。)に対し、同様の制圧行為が行われたことを当会は確認している。この事例は、移収の際の手続きに協力しない旨をB氏が告げた際に行われたものであり、本件制圧行為と同様、違反行為の非違性の程度に比して必要性・相当性を欠く過剰なものであって、「合理的に必要とされる限度」について適切な考慮がなされた形跡がない。

当会は、貴センターにおいて、このような制圧行為が、濫用的に(個々の事例における必要性・相当性の欠如という意味においてのみならず、その頻度における濫用性においても)行われているのではないかと危惧せざるを得ない。近年、入管収容施設における医療放置による死亡事例が社会からの注目と強い非難を浴びているが、このような制圧行為の濫用もまた、被収容者の死を再び招きかねず、即刻改めるべきだと考える。

(4)なお、A氏は明らかに本件制圧行為によって傷害を受けているにもかかわらず、これに対する外部診療申出を認めず診断書を取らせなかった点については、医療上のネグレクトとして制圧行為による人権侵害とはまた別個の人権侵害を構成するうえ、制圧行為の招いた結果を客観的に把握し採証することを妨げたという点でも、極めて問題であることを指摘しておく。

3.結論

以上のように、本件制圧行為は、「合理的に必要とされる限度」(規則第十七条の二)を超えて行われたものとして違法であり、A氏の身体・人格・尊厳に対する許されない人権侵害であるので、厳重に抗議する。また、貴センターにおいて、このような制圧行為が、頻繁に濫用的に行われている疑いがある。今後、このような違法な制圧行為を行わないよう求めるとともに、本件について、また組織内において濫用的に制圧行為が行われていないかどうか等について調査し、適切な組織的対応をとることをも求める。また、被害者であるA氏への謝罪も求める。

以 上

BOND~外国人労働者・難民とともに歩む会~

私たちBOND(バンド)は、日本に暮らす外国人労働者や難民のための支援活動を行うボランティア団体です。


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